その日、実に一ヶ月ぶりの休暇を彼が楽しもうとした瞬間、彼の休暇は終わりを告げた。
それは一本の電話から始まる。
正しい休日の潰し方。
着信を見た瞬間、彼は泣きそうになった。
何せちゃんとした休暇を取ったのは一ヶ月前なのだ。
ああ、取りたくない。何で持ってきちまったんだオレ。
しかし、出なければ後々酷い目に遭うのは目に見えている。
彼は一瞬でそこまで逡巡して、渋々通話ボタンを押した。
「う゛ぉぉい…一体、何の用だぁ?」
『さっさと出ろ、ドカスが!』
相手は相変わらず理不尽を地で行く彼の上司。
休暇中に電話を掛けてきたのは相手の方だというのに切れられた。
しかし、悲しいかな、いつもの事なのでそれには突っ込まず用件を聞く。
上司の台詞はたった一言だ。
『綱吉が逃げた』
スクアーロは生暖かい気持ちになった。
(う゛ぉぉい…今月入って何度目だぁ…?)
彼らが大ボス、ドン・ボンゴレ沢田綱吉は日頃はにこやかで穏やかな人物だ。
非常識な者ばかり集まっているファミリー内で、懸命に周りと己を宥め、耐えている姿には涙を誘う。
―――だが。日頃耐えている反動か、ごく稀に彼はプッツンと切れて、突然いなくなってしまうことがあった。
勿論、ファミリーを裏切るような事はしない。ただ、数時間ほど自由に遊んで鬱憤を晴らすだけだ。そうしないと溜まりに溜まったフラストレーションで何が起こるか分からない。
だから、結構ファミリーの者は時々予告もなくいなくなるボスの我が侭を大目に見ていた。
―――ただし。その回数が1月に10回を越えると流石に黙っていられなくなる。
今回は通算、今月に入って13回目のプチ家出だった。
「で? どうすりゃいいんだぁ?」
『綱吉を探せ。見つけたら連れてこい』
「…行き先は?」
『そんなもん知るか。自分で考えろカスが!』
―――ブチン。
携帯の通話が切られる。
「………う゛ぉぉい…何の手掛かりもなく、イタリア中探せって言うのかぁ…?」
どう考えても無理だ。
ボスの投げやりな言葉から、それほど期待しているようには見えなかった。恐らく、ダメ元でとりあえず片っ端から電話を掛けているのだろう。ならば、そんな事に煩わされて、久々の休暇を潰すのも馬鹿らしい。
スクアーロはそう考えて、聞かなかったことにして、休暇の続きを楽しむ事にした。
「さて、今日はまず、買出しを済ませ、て……」
スクアーロは絶句する。
目の前にはジェラートのワゴンがあり、その前で物凄く見慣れた顔をした少年がウキウキと7種類のアイスを指名して盛ってもらっていた。
「サンキュー、ありがとう、謝謝、メルシィーボクー、グラシァス、アンニョンハシムニカ、グラーツィエ!」
――――どんだけ礼言ってんだ? つーか、全然関係ない挨拶混じってたぞ?
スクアーロは眩暈がした。
少年がスクアーロに気がつき、目を見開く。
――――グッバイ、オレの休日………。
スクアーロは心の中で泣いた。男の子なので。
【おしまい(笑)】
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