憑かれた人
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最近、好きな人ができました。 役目を終えて外したレンズを、母さんに頼んで買ってきてもらった、コンタクトレンズの洗浄液にそっと沈める。視力は良かったから、母さんには怪しまれた。まさか本当の事なんて言えないから、ごり押しで何とか見逃してもらった。いきなり姿を消して、大層心配をかけたのに、また不安がらせてしまった。 Ｘ−ＢＵＲＮＥＲを発射するのに必要なコンタクトは、スパナさん自ら作ってくれた。 これの為、もっと言うなら俺のせいで命まで狙われた……実際、殺されかけて、ひどいケガを負った……と思うと、吐き気すら感じる程、胸が潰れる。でも、俺の為に作ってくれたと思うと嬉しくなるんだから、俺ってひどい奴だ。 そのスパナさんは、いない。スパナさんは、来られなかった。 「………スパナさんしか、メンテナンスできないのに………」 大事に使え、と別れ際言われた。もちろんだ。粗末に扱ったりなんてしない。 メンテナンスはウチにしかできない、と言って、大ケガを負ってるのについてくるような人だった。しかもパラシュートをつけて、それでハイパー化した俺に引っ張って貰うというやり方で。 そんなスパナさんでもダメだった。あのスパナさんはあの時代の人だから。 俺たちがこの時代の人間であるように。自然な姿に戻ったんだ。 この時代にあの人はいられない。十年バズーカみたいに、都合のいい話はそうそう転がってない。十年バズーカだって持続時間は５分きりだ。 目が痛くて、俺はぎゅっと瞼を閉ざした。涙が乾いた眼球に染み渡る。 零れたのは、それだけ目が痛んでいた証拠だ。 『さいなら』 「スパナさん………」 思い出すのは、ジンジャーの炸裂弾に被弾して倒れ伏したあの姿。俺はその姿に、モスカの中から出てきた九代目を思い出した。モスカが絡むとろくな事は起きない。 いや、そうじゃない。俺がもっとしっかりしてれば、スパナさんも九代目も大丈夫だったんだ。俺にもっと力があれば、もっと強かったら。 なのに２人とも、不甲斐ない俺に何かを伝えようと、渡そうとしてくれた。力を振り絞って、俺に向かって、真っ直ぐに。 人を好きになるって、もっと、あったかくてどきどきして、眩しい位幸せなものだって思ってた。 こんな真っ暗で、塗り込められたみたいに何にも見えなくなるなんて、知らなかった。 京子ちゃんを見ていた時とは全然違う。暗い暗い闇にすっぽり覆われて、確かに好きなのに、俺はスパナさんが好きなのに、京子ちゃんが振り向いてくれた時、偶然ばったり会った時のように舞い上がった気分にならない。 だって京子ちゃんには会えるけど、スパナさんにはもう会えない。この時代にも、多分イタリアにスパナさんはいるけど、ここにはいない。場所は同じ並盛なのに。 冷たい刃が胸に刺さって抜けない。そのナイフがあんまりにも綺麗だから、俺は抜く気も起きない。だってあの人が刺したんだから。 この時代に帰る為に頑張ったのに、やっと皆で帰ってきたのに。ごめん、皆。やっぱり俺はダメツナだ。 俺はずっとあの人の事ばかり考えてる。俺の全部があの人に向かってる。俺はあの人に取り憑かれてる。あの人は俺を支配してる。 ケガの具合はどうですか。他の皆と上手くやれてますか。誰か迷惑かけてませんか。ボンゴレは楽しいですか。そっちでもモスカ造ってますか。 あなたの声が聞きたい。あなたの姿が見たい。あなたと話したい。あなたに会いたい。あなたと、一緒にいたいです。 『また、十年後』 ……………十年、経ったら。 俺を知らないあなたは、きっと、驚くだろうけど。 会いに行っていいですか。 十年前から好きでしたと、言っても、いいですか。 |
スパナさん未来に残留、という設定で。もちろん一緒に来ちゃうのを望んでますが…。
取り返しがつかなくなって、やっと気づいた気持ち。